発展途上の日本にも、いくつかのエージェントは存在する。スポーツ選手の代理人をビジネスにする案野裕行氏に、スポーツ界の″転職″実態を聞いてみた。
選手の発掘、スカウトから、年俸交渉、移籍契約などを手掛け、選手のスポーツ人生のプロデュースに大きく貢献している案野裕行氏。ビジネス界の人材紹介会社と同様、登録した選手の移筆先を探して交渉する場合と、クラブから希望のポジションに当てはまる選手のスカウトを依頼されて選手獲得に動く場合の、二つの流れがあるという。契約選手の依頼に基づいて動く場合に尊重するのは、もちろん選手の意思。 「出場機会を増やしたい、年俸アップ、海外ヘフィールドを広げたいなどそれぞれの悩みや希望をヒアリングし、それに応じた移篇・交渉を行ないます。スキルはもちろんですが、何より重視するのは選手のプロ意識の高さ。スキルは高くても、まだ育っていない若い選手などは、我々の利益は度外視で思い切って海外へ送り出し、プロ意識を確立するきっかけを作ることもあります」。 海外移箱を希望する選手には、「この選手を見て欲しい」と海外クラブに売り込むため、ワンシーズンを準備期間に設定することもあるという。「先日のWBCや日韓ワールドカップは、海外クラブに向けた″ショーケース”でしたね」(案野氏)。 クラブオファーがあって動くケースでは、登録選手の中に該当者がいない場合、豊富な人脈を通じて該当選手を発掘する。実際に試合会場に出向いて身体能力やプレイぶりをチェック。甲子園やインターハイなど、まだ世の中に出ていない新しい選手が登場する大会で隠れた才能を青田刈りチェックすることもある。 「実力は十分でも、移籍後実力を十分発揮できるとは限らないのがスポーツの世界。選手の性格や志向と、その土壌がマッチするかも分析します。特に海外移籍だと、移籍後に国の土壌やチームになじめるかどうかも重要。過去、∃-ロッパの選手を招聘するときは、オープンテラスのピザ屋やパスタ屋に誘い、日本になじめるよう尽力したこともありました」
現在は元プロサッカー選手の李成俊氏とタッグを組み、ビジネスと選手の両面から最適なマッチングを行なっている。「彼はサッカー選手だっただけに、試合を見に行ってもお互い遣う視点で観戦していて面白いですね。例えば彼は、シュートを打った選手だけでなく、ボールが渡っていない選手がどう動いたかを見ている。僕は、バレーボールの試合で、スパイクを決められた後、誰がどうり-ダーシップを発揮してチームを立て直したかなどをチェックします」 100m何秒、打率何割など、数値ではじき出せる身体能力以外のスキルや能力も選手の総合能力として捉え、より活躍できる土壌への移籍と、その後の活躍を後押しするのがスポーツ代理人の仕事なのだ。代理人の前身で多いのは、元選手やトレーナーなどの内部出身者、スポーツライターなどの業界人脈・
知識の豊富な者、弁護士など法的知識の豊富な人。ビジネス的な視点を入れることで、移篇や年俸交渉がスムーズに運ぶケースも多いという。「スポーツの世界も、基本的にはビジネスの世界と変わりはないでしょう。代理人を上手に活用して選手獲
得や移籍先拝しなどを行うクラブや選手が増え、選手・クラブ・観客の全員がもっとハッピーになるよう、今後も深く関わって生きたいですね。」
File No.15 転職情報誌【タイプ】 type 2006/6月号 P40-41より